第27回 紅茶と文学 報告
課題本 「潮騒」
三島由紀夫 著
2021/4/11@吉祥寺
■第27回 紅茶と文学読書会
2月からおよそ2ヶ月ぶりに読書会を行いました。
毎回課題本を何にしようか悩むのですが、今回直近に呼んだ「潮騒」。
事前情報なく読んだのですが、今まで呼んできた三島作品とはかなり様相の異なる展開にとまどいつつ、文字数も内容も課題本に丁度良い、と言う事でチョイス。
以下内容に触れる箇所もございますのでご了承ください。
-ご挨拶-
今回は9名の方にお集まり頂き、初参加の方が3名でした。
今回の紅茶
- 水出し紅茶 サバラガムワSFTGFOP+ニルギリFOP
■谷崎潤一郎祭りの後
今回の会場もブックマンション。
店番→読書会という流れですが、毎度準備時間が足りずバタバタしてしまいます。
今回の店番では谷崎潤一郎祭り、と言うことで陰翳礼讃の光る看板と作品、資料を置いてみました。ブックマンションの光る間看板も作成。
陰翳礼讃看板
白く光るブックマンション看板
■三島由紀夫がこんな爽やかな恋愛ものを書いていたとは
主催者は三島由紀夫は好きな作家ではあるものの、潮騒を最近読んだくらいのライトファン。
小説の舞台は戦後間もない伊勢湾の島、主人公の青年新治と美少女初江の物語です。
三島のことだからどうせ途中で苦難や困難が待ち受けていたり怖い展開になるんだろう・・
と構えながら読み進めていたのですが、中々そうならないのでこれは素直に読んでいいのか!
と言う事に気づき、それからは楽しく読めました \(^^)
登場人物がほぼいい人ばかり、と言う理想郷の様な島です。
大ヒット朝ドラ「あまちゃん」の元ネタにもなったんですね。
■「潮騒」の中で印象に残った一節
美文が称賛される三島なので、今回は参加者の方に印象に残った一節を挙げていただきました。
■「兄が漁から帰ってくる時刻になっって宏はようやく落ち着いた。夕食後母と兄の前で手帖を開いて通り一遍の旅の話をした。すると聞き割って満足したみんなは、もう話をせがむことをやめた。すべては元に帰った。ものを言わなくてもすべてが通じる存在になっていた。茶箪笥も、柱時計も、母親も、兄も、古い煤けたかまども、海のどよめきも。
宏はそういうものに包まれてぐっすり眠った。」
非日常から日常に戻ってくる感覚。普段の心地よさを感じた。
■「よく日にやけた稔りのよい腿は。わずかな皺もなく、そのあらたかに盛り上がった肉は、ほとんど琥珀色の光沢を放っている。「こいじゃまだ、子供の3人や5人は生めるな」そう思うと、貞潔な心は俄かにおそろしくなって、身じまいをじてから良人の位牌を拝んだ。」
自分の息子が大人になって行くのを目の当たりにしながら、自分も夫がいないながらも子供を産むことが可能だ、と自覚するが慌てて恐ろしくなる- よく書かれていると思った。
■「村が一いっせいに明るい灯をともしたのである。それはまるで音のない花々しいお祭りの発端のようで、窓という窓はラムプの煤けた灯とは似ても似つかない、明るい確乎とした光にかがやいていた。暗い夜の中から村がよみがえり、泛び上って来たようである。久しいあいだの発電機の故障がなおったのだ」
■「新治のまわりには広大な海があったが、別に根も葉もない海外飛雄の夢に憧れたりすることはなかった。海は漁師にとっては農民の持っている土地の観念に近かった。海は生活の場所であって、稲穂や麦の代わりに白い不定形の穂波が、青ひといろの感じやすい桑土の上に、絶えずそよいでいる畠であった」
■「そのとき千代子は、初江と寄り添って、嵐の吹き付ける石段を下りてくる新治の姿を見たのである。」
■「あたしの顔、そんなに醜い?」
「なあに、美しいがな」「美しいがな!」
そして岸には幸福な少女が残った。
■「志望者の八人の海女を乗せた船が汀を離れる。舵取りは競技には加わらない太った中年女である。八人のうち初江一人が若い」
■「少女の目には矜りがうかんだ。自分の写真が新治を守ったと考えたのである。しかしその時青年は眉を聳やかした。彼はあの冒険を切り抜けたのが自分の力であることを知っていた。」
■開催後記
想定より「潮騒イイ!」と言う流れにならなかったのが意外と言えば意外でした。
おそらく三島の小説の中では一番幅広い人気を獲得してる作品ですが、今回の参加者の間では好き嫌いが別れました。
意図的にかかれた駄作、と言う評価も有るようですが、個人としては好きな作品となりました。世知辛いご時世なので、こういう理想的な物語が沁みますね。。
80年代のハリウッドとかに持っていってもそのまま使えそう。
映画化は5回されていますが、個人的には2作目、吉永小百合verの初江が一番好きです。