紅茶と読書会 第三回報告
2018/7/1
課題本 「午後の曳航」
三島由紀夫 著
1963年 発行
~戦後の横浜 栄光を求めた先にあるものは ~
舞台は昭和30年代港町・横浜。中学生二年生の登は、
世界は記号と単純な決定だけで構成されていて、
そして父親や教師は存在そのものが大罪であるとと信じていた。
ある日、船の見学に赴いた登と未亡人の母房子は港で船員・竜二と出会う。
船乗りは登の家を訪れ、そして母の部屋へと向かう。登はいつものように覗き穴から二人の様子を伺うのであった。
デヴィッド・ボウイの愛読書としても知られ、海外での人気も高い後期の中編小説。
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以下内容に触れる箇所もございますのでご了承ください。
-ご挨拶-
紅茶と読書会、第3回として「野性の呼び声」を課題本とする会を開催いたしました。
今回は9名の方にお集まり頂きました(過去最多、パチパチパチ)。
選書の理由
2017/1月~4月に「David Bowie is」と言うデヴィッド・ボウイの回顧展が東京で開催されていたのですが、そこでボウイの愛読書として紹介されていた本がこの「午後の曳航」でした。
へーそうなんだ~と思いつつ展示を見ていくと、さらにそこには三島の肖像画が飾られて、横にはボウイ作と記されていました。
???となったんですが、確かに年代は重なっていますし、交流があったんだ・・と納得。美意識も重なる部分はありますよね。
丁度三島にも興味が出ていた時期だったし、ボウイの愛読書と言う事ですぐに購入。
200ページ弱と丁度良い長さで、三島の特徴である美文もくどくならならず、バランスが取れていて、むしろ最大限に良さを発揮している小説ではないかと思いました。
今回の紅茶
1. ニルギリ(インド) FOP 水出しアイスティー&マンゴージュースのバリエーションティー
2.n-bakery blend(ハーブブレンド) 中田ベーカリーオリジナル紅茶。
1.主な登場人物
・房子
横浜で高級洋品店を経営する未亡人。33歳。竜二と出会い、久しくなかった心の揺れ動きに戸惑うが、竜二を夫ととして向かいいれる決心をする。
・登
房子の息子。中学二年生。裕福な家の子供だが、エリート少年ギャング団構成員。
3号と呼ばれる。
世の中は単純で大人はそれだけで悪だと決めつけ、自分は天才だと信じている典型的中二病少年。
・竜二
世界中をまたにかける船員。34歳。
彼方にある栄光を求めるロマン主義者であるが、房子と出会い陸に上がる決断を下す。船員として登の崇拝の対象となるが、父親としての存在が状況を不確かなものにする。
・首領
少年グループのリーダー。心に大人と子供が共存する救いがたい中二病患者。
優秀だがひどく残忍な性質をもつ。
2. 読書会を開催して
言わずと知れた三島由紀夫ですが、読書会界隈でもあまり三島フリークにお会いしたことがなく、 参加者の皆さんが三島に対してどういったイメージを持っているのか、またこの作品にて対して何を思ったのか、を聴くのが今回のテーマでもありました。
自決や軍服、同性愛的なイメージもあり中々公言しにくいのか、などと思ったり。
参加者の中にも男性がこれを読んでどう思うのか知りたいという声もあったので、そういったニーズはあったんでしょうか。
まず小説の入りからして三島的、母親の部屋を覗き満足感を覚える息子と言うくだりです。 これだけで読むのをやめる人がいるのでないか、とも思われます。
ほどなく竜二と母親の情事を覗くことにもなるのですが、登はその光景に狂喜乱舞し恍惚となります。 ここでの「これが壊れるなら世界は終わりだ、これを守るためなら何でもする」と決心と、父親はそれだけで大罪である、この2点がこの物語が展開していくうえでの根拠として錨が下されます。
竜二も自分が特別だと信じている30過ぎの男で、中二病を引きずっているのがよくわかります。
彼方の栄光があると考え、太陽や嵐、訪れた地の情景などのイメージとともに、彼方の栄光=死であるのではないかと、も示唆され、また本当にこのままで良いのかと言う迷いも持っていることが分かります。
中二病=ロマン主義とも言えますが、誰しもこのような感覚は持つもので、実際参加者の方々に聞いてみますと、こういった感覚は皆さん持っていたようです。
しかしこれをずっと引きずると中々大変ですね・・・身に沁みます。。
こうした彼方の栄光を追い求める竜二が徐々に陸の男として、そして父親として登に近づいてくる部分から物語が動いていきますが、竜二にとって不幸だったのが登の属する少年グループとその首領の存在です。
中二病と言う言葉では片づけられない残酷な性質を持つこの首領、この少年が竜二を再び英雄にしてやるにはどうしたらいいか、少年たちに問いかけ少年たちはその答えを実行に移していくのです。
この辺りは当時としてはかなり物議を醸してのではないかと思われますが、三島なりの少年少女の持つ残忍性を表現したのでしょう。未来を予言しているかのような、神戸連続児童殺傷事件を思わせる部分ですね。
本編は195pで終わっていますが、三島はこの後数ページ解剖の描写を書いていたようです。
最終段階で削ったようですが、もしこの部分が付け足されていたとしたら、作品の評価はどうなっていたのでしょうか。
3. まとめ
残酷な描写がある作品ではありますが、読書会を開催後もやはり素晴らしい作品だと改めて感じました・・・が会の後に聞いいてみると参加者9人中2人は三島がダメだという反応でした。。
イメージとしての太陽、海、波、世界中のあらゆる土地、自然、嵐、そう言ったものが光り輝くものとして脳に残るような作品であり、その辺りの要素がこの作品を私が好きな理由なんですが、ラストシーンで竜二の脳裏を駆け巡るもの、それを共有出来るか出来ないか、ここがポイントなのかなと個人的には思いました。
登も竜二も三島自身が投影されていて、この時期の作品では如実に死の匂いを感じ取れます。
竜二に栄光は訪れたのか、訪れなかったのか。その判断は読者に委ねられるのでしょう。