紅茶と読書会 第四回報告 2018/8/5
課題本 「中国行のスロウボート」 村上春樹 著
1980年 発行
~「僕」の出会う中国人を通して村上春樹のスタンスを感じ取る~
「いいですか?顔を上げて胸を張りなさい。」
「そして誇りを持ちなさい」
「そもそもここは私のいるべき場所じゃないのよ。」
最初の中国人に出会ったのはいつだっただろう。
1959年から70年代までの、「僕」が出会う「中国人」を通して世の中をに問いかける初期の短編。
居場所とは何か、確かなものとは何か、世界は不確かなもので満ち溢れているのか。
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以下内容に触れる箇所もございますのでご了承ください。
-ご挨拶-
紅茶と読書会、第4回として村上春樹著「中国行きのスロウ・ボート」として「かえるくん、東京を救う」
の2編を課題本に選び、9/2に開催いたしました。
今回は10名の方にお集まり頂きました。
この小説は村上春樹の処女短編あり、そして彼の社会へのスタンスが「中国人」を通して
非常にうまく描かれているなと感じたので課題本に選びました。
今回の紅茶
アイスチャイ シナモン、クロ-ブ、ジンジャー、カルダモン+Nilgiri CTC
(太田胃酸の匂いがする、と率直なご意見を頂戴しました・・・)
2.ASSAM SFTGFOP 2nd Flush
■1980年発行 村上春樹最初の短編
この「中国行きのスロウ・ボート」と言うタイトルは、著者が初めて短編小説を書くに当たりまったくアイデアが思い浮かばず、タイトルを決めてしまえば内容もそれに合わせた感じで書けるだろう、という事で頭に思い浮かんだのがこの曲名だったようです。
元々は「On A Slow Boat to China」と言うジャズのスタンダードナンバー。
数多くのミュージシャンにカバーされており、その中でもソニー・ロリンズの演奏が名演とされています。
■3人の中国人 -40年近く前に書かれた中国人像-
物語は昭和20年代生まれの「僕」が人生で出会う中国人について語っていきます。
一人目は少年時代に模試の会場で出会った中国人学校の教師。
少年は中国人学校で模試を受けることになりますが、当然のようにそれに不満を持ち、無意識下で中国人を蔑みます。
しかしこの教師は試験の説明と言うわずかな時間で、少年の心に後世まで刻まれる言葉を残します。
二人目は大学生の時に会ったアルバイト仲間の女の子。
働く中で仲良くなった彼らは、最後のアルバイトが終わった後ディスコへと繰り出します。
その帰り道「僕」は彼女を誤って山手線の逆方向に乗せてしまい、少女の心を深く傷つけてしまいます。
しかしそこに悪気は全くありませんでした。
三人目は28歳で偶然再会した高校時代の同級生。
相手は「僕」の事を鮮明に覚えているのに、「僕」は彼の顔も名前もまったく覚えておらず、訝しみながらも会話を続けます。「中国」と言うキーワードがスイッチとなり彼の事を鮮明に思い出すのですが、完全に記憶から抜け落ちていました。
■メタファーとしての「中国」
今回の参加者の中にたまたま「村上春樹と中国」について講演会に参加されており、
この短編についても言及があったようです。
この小説に自然に表れるものは「中国」に対する蔑みであり差別的な感情である、と言った事だったみたいですが、今回の読書会でもやはりそういう意識の表れとして僕の行為をとらえる意見が多かったように感じます。
ここでの「中国」とは中国単体ではなく、朝鮮半島、そしてアジア全体を表しているでしょうか。
中国、そして「僕」が中国人から受けた影響、してしまった行為、記憶、等これら全ては中国と言うメタファーを通して戦後日本の社会を風刺しているように思えます。
■最後に
繰り返しになってしまいますが、この短編には村上春樹のスタンスが表れていると感じます。
読みやすく、中国と言うキーワードをうまく使い、世に人類上の問を投げかけている優れた文学言えるのではないでしょうか。
巨匠として扱われるようになってしまった現在の著者には失われてしまったような気がしますが・・・。
是非もう一花咲かせてほしいところです。