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第18回  紅茶と文学  報告  

課題本 「スローターハウス5」

 カート・ヴォネガット 著

2019/12/8@吉祥寺

1969年 発行

 

■人生とはそういうものだ

Slaughterhouse-Five, or The Children’s Crusade: A Duty-Dance With Death

ドレスデン爆撃を描いたヴォネガットの代表作。

ビリー・ピルグリムは「時間の中に解き放たれ」

過去、現在、未来を行き来する。

人生とはそういうものだ。

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以下内容に触れる箇所もございますのでご了承ください。  


-ご挨拶-


 今回は11名の方にお集まり頂き、初参加の方が5名でした。

 今回の紅茶

  1. チャイ クレイグモア農園 (ニルギリ) BOP+ CTC

  2. ニュー・ビタナカンダ農園 SFTGFOP(サバラガムワ・スリランカ) チャムラジ農園 FOP(ニルギリ) 


■ヴォネガットと村上春樹と太田光

こんにちは。

今回はヴォネガットの「スローターハウス5」を課題本としたわけですが、この人も読もう読もうと長年思いながら手が出ない作家のひとりでした。

村上春樹が度々エッセイや著作で言及していたり、爆笑問題の太田光が事務所名を「タイタンの幼女」から取った話は当然知ってたのですが、しかし中々読むことがなかったわけです。

しばらく前に購入していて積読状態でしたが、前回「夜と霧」が課題本だった事もあり、第二次世界大戦、ドイツ、と繋がる部分があるな、とふと思いそこから一気に読み始めました。

初読ではこれを課題本にして人が来るだろうか・・・と思ったのですが、他に候補がないこともあり冷や冷やしながらの募集でしたが、何とか満員になったので安心しました。

第五屠殺場と言う意味のタイトル

ドレスデン爆撃

1d

ヴォネガットまだこの一冊しか読んでいないのですが、最低でもあと一冊、タイタンの幼女は読まねばと思いました。

決してわかりやすい作風ではないですが、軽妙な語り口の中にある主題は決してぶれない作家だと思うので、頃合いを見つけて読んでいきたいと思います。

ヴォネガット、と言う名前もかっこいいのかなと思います。

「好きな作家は?」「ヴォネガット、ああカート・ヴォネガット・ジュニアね」って言うだけでややドヤ的満足感が得られそうな気がしませんか?人生とはそういうものです。


■スローターハウス5 印象に残った箇所 感想等

皆さんほぼ初読との事で色々な読み方をされたようです。

​印象に残った箇所や読了しての感想などを書いてもらいました。

■P 76

「ビリー・ピルグリムが変えることの出来ないものの中には、過去と現在、そして未来がある。」

諦めの悲しみが感じられる一文、ユーモアとの対比が一層悲しみを深めている。

■1.笑いの文学である

主軸ではビリーがラジオ番組でトラファマドール星人の話をして、狂人のたわごととしてスキャンダルとなったが、人の死を「そういうものだ」と軽く流してしまうブラックユーモアがある。

2.多文体的、重層的な構造である

クリスマスカード、俗謡、歴史書、鳥の鳴き声、詩の引用、ニュートンの法則、キルゴア・トラウトの小説、キリスト教研究、様々な視点から物事が多角的に述べられている。

3.軽妙な語り口の裏にある人生観

P86、P 274で過去、現在、未来を同一の位相の中で語る、トラファマドール星人の人生観

P 159「嫌な時は無視し、楽しいときは集中する」

■人の生の短さに対する時空の広大さを感じた。ヴォネガットは誰よりもそれを感じ、人生の小ささ、虚しさを感じていた人だと思う。その中で「神は変えられるものと変えられないものを区別する力を、変えられないものを受け入れる落ち着きを授けた」と言う祈りの言葉が非常に印象的だった。

■海外文学はあまり読まないので、アメリカのコンプレックスな部分を垣間見れたようで面白かった。

読書会を通じて戦争小説として考えると、時間を俯瞰的に断片的に切り取って落とし込むような書き方は、下手にドラマチックに表現するより差し迫るものが有った。子供が無意味に死ぬことは客観的に描かれた方がより精神的に来る。

■初読では少し真面目にとらえていたので、もう少しユーモアを楽しめる視点で、もう一度読みたいと思いました。人間の本性、自由意志、トラファマドール星人、ドストエフスキー、人間の傲慢さ、そういうものだ、気になったキーワードです。

■自分が何をしたところで未来は変えられない。そんな状況の中でいかにして生きていくのか、と言う問いを投げかけられたような気がしました。妄想であれ、現実であれトラファマドール星人に時間の中に解き放たれたら「そういうものだ」と言いながら、楽しい瞬間に感謝できる人間でありたいと思いました。

■この小説のような書き方をしないと筆者が経験したドレスデン爆撃について語れなかったのだろう。当事者とそれ以外の認識の差について考えさせられた。

■感じた部分 哲学的な内容、宗教、次元、自由

書き方 散漫だけども場面展開が面白い(時系列、戦争など)

淡々と描いているのが良い、再読したいと思える内容で、タイタンの幼女も読みたいと思った。

■一生を演劇のようにとられる見方は実践したいと思っていることで、その意味ではタイムリーな作品だった。パート2で演習に関する思案があって、その中で「死体となってものを食べるとはなんとトラファマドール的な死への挑戦でないか」という箇所がまさに演劇的な人生観を表しているように思える。


■読書会を終えて

SF的要素もあり、反戦小説でもあり、哲学的な示唆に富んだ内容でもあるので、決して読みやすくは無い小説でしたが、今回も読んで良かったと思える作品だったと思います。

毎回レポートが遅くなってしまい申し訳ありません。

次回は終了後1週間以内にアップしたいと思います。

2020年1月は一度お休みして、2月から開催を予定、課題本は日本文学になる予定です。

課題本を撮影。

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